眠ノ記

寝言と黒歴史を丁寧に磨いてお出しします

てめー何見てんだよに関する考察

中学生のころ、おばあちゃんの持病が悪化して車椅子に乗ることになった。

 

車椅子を引いていると、たまに不思議な視線を向けられることがある。障がい者を見下しているというわけではないんだろうけど、明らかに「普通とは違うもの」を見ている、どんより暗〜い瞳。

僕はそれをひそかに「無為の瞳」と名付けた。

 

中華料理屋では、小汚いじいさんがにちゃにちゃと咀嚼音を立てながら。路地裏で井戸端会議中のおばさん達が、僕らが横を素通りするあいだずっと目で追ってきたこともある。

 

たぶん、あいつらは頭が空っぽなんだ。こっちは悪くないんだから堂々としていればいい。若き日の僕は自分にそう言い聞かせながらも、彼彼女らの行為に憤った。

 

 

 

それから数年後。
大学生になった僕は、池袋の音楽スタジオでバンド練習を終え、休憩室で談笑していた。すると見知らぬ男がこちらへ近づき、僕らバンド仲間のひとりに向かって

「てめー何見てんだよ」と言った。

 

彼はどうやらロカビリーバンドをやっているらしく、赤いボーリングシャツを着て、頭頂部にリーゼントをこしらえていた。

それはそれは立派なものじゃった。ハマの番長、みやぞんなんてもんじゃない。なにせ「おうコラ!」と因縁をつけているあいだも、おでこの上でプルンプルンと揺れるのだ。

 

( いや、そりゃ見るって!)

 

僕は心の中でつぶやいた。見ていた覚えはない。でもあんな目立つもの、見ていなかったとは言い切れない。若き日、おばあちゃんのためにあれだけ憤っていた僕が、友や自分が「無為な瞳」を浮かべたことを否定することができなかった。

その瞬間、僕は考えをあらためた。人は見慣れないものを無意識に目で追う。火に入る虫のように本能的に。

その日、おばあちゃんとロカビリーが重なった――。

 

 

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世の中には、周りと違うことをしておいて「てめー何見てんだよ」と怒る人がいる。自分でタトゥーを入れたけど温泉には入らせてください的な。そういう人は、きっと普通の存在として扱われてこなかったコンプレックスがあるんだろう。普通の場所にいられなかったからこそ、オリジナルの証を欲しがったのだ。

 

最後に、これを見ている巨乳の女性がいたら伝えたい。男があなたの胸元を見たとき、それは下心じゃなく、ただの無為の瞳の可能性が高い。猫が猫じゃらしに反応したようなものなのだ。怒ってもいいけれど、その時はどうか笑顔で、「何見てんのよ」と言ってあげてほしい。