眠ノ記

寝言と黒歴史を丁寧に磨いてお出しします

出会い系の女と3ヶ月一緒に棲んだ話(生活編)

大塚は文学と、山手と、アジアンと、風俗と、いくつかの道が交差しているような街だった。結果なんにもないけど。

僕は朝、無理やり起こされると、まだシャッターの閉まっている街の片隅に座り込んで煙草を吸った。その時着ていたのは上下ともZに借りた服だ。シャカシャカ素材の緑の短パンと、鉄腕アトムのパチモンみたいなイラストが書いてあるラグランTがお気に入りだった。当時の僕は痩せこけていて、髪は銀色である。どう見てもあやしい。たまたま街に降りたところを保護された狼少年のようだった。

 

お昼になるとおにぎりを買いに行く。専門店の手づくりで、とびっきり優しい味がした。まだあるかな。

 

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金がない

で、なんだかんだ大塚から都電で大学に通うようになった。実家は東京だし、定期券があるから帰ればいいんだけど、なんかいいじゃない、女の家から学校みたいなダメな感じの。太宰みたいで。

しかし、この生活には問題があった。シンプルに金がすり減っていく。Zの家に買い置きのコーヒーはないし、往復の交通費も無駄にかかる。でもバイトに行くのは嫌…ということで、すっかり困ってしまった。

しかし僕は画期的な方法を編み出す。
そう、Zを雇い主にするという荒業だ。


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とはいえ、なにも体を売るわけじゃない。

彼女はやたら頭のいい大学で化学を学んでいて、授業によっては前もって結構な量の英文を訳しておく必要があった。実験続きの生活の中ではなかなか骨の折れる作業だと漏らしていたので、文系の僕がその面倒を買って出たのだ。ページ400円で。なんかいいじゃない、女から金とかそういうダメなの。啄木みたいで。

学生が払うにはなかなかな金額にも思えるが、Zが開業医の娘だったので成立した。この時期の影響で、僕は面倒なことが起きたときに、「あー、メンデレーエフ」とつぶやくようになった。元素の周期表をつくった人の名前だ。
 

ja.wikipedia.org


仕事はつくるものだ、と敬愛するみうらじゅんさんも言った。しかしこの仕事は思いのほか大変だった。普通にコンビニで働いた方が数倍割りは良かったと思う。

うーん、うーんと唸りながら、数時間。どでかい判型の学術書とにらめっこして、得られるのがせいぜい800~1200円だ。買えるのはタバコと電車賃とおにぎりのみ。とても夜ご飯は買えず、Zの善意に甘えて2人分作ってもらうしかなかった。たとえそれが魔女が作ったような料理でも。

料理が下手な理由の9割は、要らん創造性からきているという真理を知った。なんでも洋風にアレンジするんじゃねえ!


自転車

さて、そんな生活にも青春があった。水道橋の方まで一緒に二人乗りしてみよう、となった時だ。彼女は田舎を思い出せるし、僕は男子校時代の憧れを実現できる。ウィンウィンの関係といえた。ワクワクしながら一路、水道橋の方向へ。一度軽く丘を登ったあとまた下ることになるルートだ。

ところが、Zがもっていた自転車が明らかに二人乗りに向いたヤツじゃない。折りたたみの中でも最下級との品質で、フレームほっそほその、車高たっかたかだったのだ。お前またヴィレヴァンで買ったのか!長く使うものを買うときはやめろとあれほど言ったのに!

もうしらん。(こぎはじめる僕)

いざゆかん。(ふるえるZ)

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ドチャーン💥!


やっぱりこける。東京ドームの目と鼻の先で、僕は膝を壊して夜空を見上げた。後ろに立っていたZは足の親指をフレームに引っ掛けるみたいにしてギリギリもちこたえていただけだし、もしかしたら僕より重いんだから、当然の成り行きだったのかもしれない。

近くに転がる女のフォルム。すっかり日焼けしたせいか、当時ミレニアム打線で猛威を振るっていたジャイアンツのマルティネスに重なる。

 

しかしそんな彼女も、少し身を軽くしようと本格的に動き出すのであった。

 

「サヨナラ編」に続く


(画像出典)
http://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail&id=097-20180926-10